株式会社コプロシステム

2020.08.21 | ノート 【消費者を理解するとは】第6回(最終回):業界概念を飛び越えるのは、消費者

日本はイノベーションが起きにくい?

 日本の市場について、よく言われていることの一つにイノベーションが起こりにくいということがあります。また、海外の新しいサービスも、日本市場における普及には、他国と比べて時間がかかる傾向にあります。

 これは、言語や文化などの違いも大きいですが、それ以外に日本市場における独自の商習慣や社会環境、特に規制のルールの変革が必要な業界において既存の業界の影響力が強いことが挙げられます。ビジネスモデルやサービスの仕組みが従来と大きく異なると受け入れられづらくなる環境になっているのです。さらに、そもそも新たなサービスを生み出すスタートアップを支援し、成長させるサイクルがアメリカなどの先進的なイノベーションやスタートアップの多い地域との差も大きく、市場導入が難しくなるという背景もあります。

 それでも、ここ数年で日本におけるベンチャーキャピタルの数、支援額は増加傾向にあり、それに伴ってスタートアップは増加しつつあり、新たなサービスを生み出しやすい環境になってきています。

 ただ、今回の新型コロナウイルス感染症の世界的な広がりによって、デジタルの活用で現状を打破する新たな環境整備やサービス展開が必要になる一方で、スタートアップへの投資意欲は減退傾向にあり、今後の状況は注視していく必要はありそうです。

新型コロナウイルスという「見えない力」が急速に人々の生活を変えていく

 しかしながら、新型コロナウイルス感染症のような世界的にも大きな社会変化を伴う出来事が起こると、多くの人の生活や行動は急速に変わっていきます。

 特にコロナウイルスに関しては、ウイルスという見えない力に対して、外出自粛のような物理的な移動制限が起こったことにより、半ば強制的に生活行動を変えざるを得なくなりました。この数カ月で、私たちの普段の行動は大きく変わりましたが、こうした予想外の社会変化が人々の行動に及ぼす影響は大きく、コロナウイルスがいつまでこのような状況を私たちに強いるのかはまだ判断の難しいところです。

 その一方で、デジタルの力が生活の変化に新たな便益を生み出すきっかけになり、これまでとは異なる視点で様々なサービスが注目されています。オンライン会議やECサービスなどデジタルを通じたコミュニケーションや消費行動など、移動を伴わない行動を選択する機会が増え、例えば学校でのオンライン授業から薬局での処方箋依頼など、今や一般のご家庭にもZOOMやGoogle meetsなどのオンライン会議システムが活用されています。

 私たちはこうしたデジタルツールを新しく生活の中に導入して徐々に現在の生活に順応しつつある状況です。コロナを回避する目的で利用者や利用機会が変わったこれらのサービスだけでなく、今後新たに必要となるニーズは、トレンドのようにコロナ以前と以後では大きく変わっていきます。

 たとえば、欧米を中心に挨拶はハグや握手ではなく欧米のスポーツ界を中心に拳を合わせる、肘を合わせるなどの新習慣が広がり始めています。不測の状況は、これまで当たり前だと考えられていたルールや構造自体を大きく変える転換点とも言えます。

全く新たな競合が生まれうる可能性

 ファイブフォース分析*と呼ばれる業界競合分析のビジネスフレームワークがあります。自社に対してどのような競合要素を持つ企業が存在するか、あるいは登場するかということを把握・検討し、事業環境の把握や分析を行うためのフレームワークですが、このフレームワークで使用される5つの要素の中に代替者という要素があります。

 これは、既存の業界と全く異なる観点で競合になりうる、あるいはすでに競合視できるととらえられる異業種の企業のことです。簡単に言えば、今まで全くノーマークだった業界の企業が急に競合となるようなケースです。代替者は他の要素に比べるとあまり多いケースではありませんが、現在のような不確定要素が多い状況こそ、新たなアイデアやサービスが成長しやすく、代替者が生まれやすい状況とも言えます。

 ファイブフォース分析において業界とは、収益を奪い合う相手が存在する領域であり、同様のサービスを展開しているというだけではなく、より広い捉え方をします。この視点で考えていくと、提供するサービス自体が異なっていても、競争する相手をより広い範囲で捉え、より本質的な競合が誰かを見極めやすくなります。

 たとえば自動車メーカーにとっての競合とは、同じ車を作っているメーカーだけではなく、カーシェアリングサービス、公共交通機関、場合によっては自転車や徒歩でさえも競合として捉えることができます。視点を車ではなく移動そのものに置くことで、競合の幅を広げ、競合同士において消費者が求めている本質的な価値が何なのかを改めて問い直し、確かめることができます。

 代替者は様々な形で外部から登場してくる可能性があるため、そうした未知の要素をどのように発見し、それを具体的に考える材料にしていけるかが重要です。そういった点で、自社の商品やサービス、他社の状況などを振り返るだけでなく、未知の要素について考察できる企業とそうでない企業で、選択肢の幅はかなり変わります。

*ファイブフォース分析:マイケル・E・ポーター氏の書籍『競争の戦略』で紹介されている事業環境分析のフレームワーク。5つの要因(=ファイブ・フォース)とは、業界内競合、新規参入者、売り手、買い手、代替者を指す。

当たり前の不便に焦点を当てる

 企業が同業者を中心とした狭い意味での業界視点を大事にする一方で、未知の要素は、世の中の人の普段の生活に隠れています。日常で当たり前に受け入れられている不便さ、特に不便だけど解消できていない出来事に隠れていることが多く、こうした不便をどう発見し、どのように解決に導くかを考えるかが重要になってきます。

 なぜなら、こうした不便はいざ解消されることがわかると、こぞって人々がそれを選択するからです。この10年間で広がったスマホは、ユーザビリティ性が高く、誰でも扱いやすいインターフェースを実現しました。

 さらに、SNSなどの情報発信手法は、多くの情報を集める、読む、そして発信できることを、より簡単でわかりやすい方法を通して、多くの人に使われるようになり、   固定電話や手紙などの従来のメッセージング手法を古いものに変えてしまいました。

 それは、消費者が従来の枠組みを超えて、新しいサービスを使うことを選択したことによって広がったものです。AmazonなどのECサービスも同様で、買いに行くという行動そのものを省略することに対する利便性が高まれば、近くのスーパーで買う物も変わり、生活の仕組みも変わっていきます。同業種という業界を意識しているのは企業だけで、消費者は業界という概念を簡単に超えて、良いと思ったサービスに移り変わっていきます。

 それは、これまでにもご紹介した時間の使い方や、自分にとって最適な生活を、限られた所得や限られた時間を有効に活用するために、利便性を求めて不便さを解消していこうという行動の表れでもあります。

 消費者が抱えているこうした不便をまずは観察し、発見することが業界の枠組みを超えた、新しいアイデアやサービスの気づきにつながります。また、その発見、対策立案、実行のスピードはどんどん速くなっているため、今まで以上にスピーディな意思決定やトライアルができる体制を創っていく必要があります。

 良いものを作れば売れるという時代も、消費者のニーズをくみ取る形でソリューションを提供する時代も終わりました。今は消費者と共にトライ&エラーを繰り返しながら、ともにより利便性の高いサービスを生み出して行くことが求められる時代です。

 そのために、消費者とのキャッチボールを常に行いながら、商品やサービスの開発を進められるような企業活動が求められており、ある意味で消費者と企業は今まで以上に対等な関係性を気づくことがカギになっています。

 様々なデータが収集できるようにはなりましたが、それらのデータが、議論され、アイデアや気づきという実になる仕組みを作っていくような意図がなければ、消費者からの適切なフィードバックは返ってきません。消費者に向けたサービスでも、顧客に向けたサービスでも、常に困りごとを見極め、解決に導くもとになるのは、困りごとの原因と背景をとらえる観察力と、洞察力にあり、それを磨いていかなければならないと考えています。

 当たり前ととらえているものこそ、本質的な不便が潜んでいる可能性があります。私たちはそこにある本当のニーズを探し出す方法、そして、それを解決策へとつないでいく支援を、今この状況下でこそ、発揮していくために、消費者を見つめ続けることに価値があると捉えています。

第1回から読みたい方はこちら!

【消費者を理解するとは】第1回:ブランドイメージとはなに